母なる自然のおっぱい  池澤夏樹  &  植村直己・妻への手紙  植村直己


池澤夏樹が冒険について書いたものを読み始めて、私はすぐに植村直己のことを思った。
冒険者といえば、私の中では植村直己だった。
そして4ページ目には当然のことのように植村直己が登場し、つまり池澤夏樹植村直己について書いていた。


私が植村直己という人物をはっきりと意識したのは、まだわずが4か月前のことだ。それまではそういう人がいたということをうっすらとしか記憶していなかった。

4か月前に、私は植村直己が極地から妻へ送った手紙を読んだ。
その感想は、
「真冬のアラスカ・北極圏を犬橇単独踏破した冒険家の内面は、実に人間臭い男だった」
というものだ。
想像もつかないほどの孤独な旅の中で、彼は妻の公子さんだけに本当の思いを吐露しながら、冒険を成し遂げる。雪と氷の世界に生きながら、彼は熱く烈しい人間だった。


冒険家は次の冒険に出るために帰ってくる。
何度も何度も死にそうになりながら、それでも彼は冒険を続ける。
彼が真冬のマッキンリーに消えた後、世間は彼を無謀だったと責め、どこかに甘さがあったと原因を探した。
けれど彼はそんな世間の論争なんて超越した場所にいた。
冒険が与えるものを享受するのは、冒険した者だけだ。
それ以外の者は、こっそり(いや、堂々とか?)想像に便乗しているに過ぎない。
そして冒険から帰れなかった責任や痛手を負うのも、冒険者のみだ。
山で死ねたら本望だなんてばかげてる、「山では絶対に死んではならない」と言った彼。





そして旅人も、次の旅に出るために帰ってくる。なんてね。



植村直己 妻への手紙 (文春新書)

植村直己 妻への手紙 (文春新書)