800  川島誠

800 (角川文庫)
陸上の800mはスタートからゴールまで全力疾走だ。中距離じゃなくて、本当に最長の短距離走だと思う。
私は中学3年間陸上部で800を走った。大会での記録は散々だったけど、あの周りの勢いのある感覚は今も覚えている。広瀬のように計算して走る余裕などなく、周りに圧倒されて否応なく始めから全力疾走を課せられ、そんな私は後半それを持続できずにペースダウンしてしまう。
彼らの陸上に対する取り組みに、私ももっと真面目に練習すれば全然違うおもしろさを味わえたかもと思った。


陸上というのは基本的に個人種目だし、孤独な競技だ。
そんなことを思うと、広瀬と中沢の思いがはっきりと区別されて書かれていることは、それぞれの個を際立たせる意味で陸上に通じる部分がある。同じ瞬間同じトラックを走る為に、正反対な性格の二人が全く違う日常を送り、時に交わりあう。そこに面白みがある。
どれだけ違った環境の中にいても、二人は予選を勝ち抜き同じスタートラインに立つ。
ピストルと共に踏み出すレースは、まるで人生の縮図みたいだ。