王国 その1 アンドロメダハイツ     よしもとばなな


 よしもとばななの本を読んでいると、気持ちが落ち着いてくる。懐かしい場所に、本来あるべき場所に、静かに帰っていくような感じだ。
 主人公の雫石は祖母と共に山奥に住み、様々な病を抱えた人達の為にお茶を作る手伝いをしてきた。やがて事情があって山を降り、祖母とも離れ、ひとり街で暮らすようになる。街の暮らしに馴染めないこともあるが、彼女は出会った素敵な人達と植物に囲まれて助けられながら日々を過ごしていく。
 彼女の生き方はまるで私の憧れだ。大切な人達と植物を愛して、穏やかに日々を営む。彼女は確立した自分の王国を築いていた。
 彼女の場合、王国の柱はサボテンにある。それは何が起きても崩れない、太い太い大黒柱だ。私ははじめ彼女の暮らしぶりに憧れていると錯覚したが、私が憧れているのはその大黒柱だと気付いた。過ぎていくだけの日々にたった一つ、確固たる大黒柱があれば、自分の王国を築くことが出来るのだ。雫石が出会う素敵な人達は皆、心の中にその柱を持っているようだった。もしかしたら私も、すでにあるその柱に気付けていないだけかもしれない。
 それぞれの王国に惹かれるようにした出会いには不思議な力があって、魔法のようにいい流れを生む。よしもとばななの世界は、そんな目には見えない力で成り立っている。そしてそれがとても心地良い。