ラヴレター   岩井俊二

届くはずがない手紙を書きたくなる気持ち。きっと誰もがそんな気持ちになることがある。戻らない過去への手紙。
岩井俊二監督の同名映画「ラヴレター」を見たのは、もう何年前になるだろう。ストリーはなんとなく覚えていたけれど、もうほとんどの情景は忘れていた。憶えているのは4月の大雪の中で樹が祖父に背負われているシーンと、最後に雪の中で博子が叫ぶシーンくらいだ。だけど、雪の中で解き放たれていく切なさだけは、胸に残っていた。
もしも過去が返事をしてくれたなら、私は何の話をしよう。思い出話くらいしかできない私に、過去は、新しい過去をくれるだろうか。新しい過去を知った私は、それを知った瞬間から思い出に変わっていく過去に、どんな思いで返事を書くだろうか。そしてその手紙に、どうやって終止符を打てるのだろうか。
言葉にできない思いが、博子の書いた最初の手紙であり、最後の叫びだった。言葉にしたらきりがない思いが、そうやって解き放たれていく。人は、どうしたって前に進んでいかなければならない、そう思った。
また、もう一度映画を見てみようと思った。


それから、北川悦吏子の解説の最後に、9年前の今日の日付と「あ、節分ですね」という言葉があった。9年前の同じ日に、この本を閉じた人がいたのだなと思うと、この偶然になんだか不思議に嬉しい気持ちになってしまった。