あいしてる   鷺沢萌

「大切なのは、わたしが誰かを知っているということだ。誰かがわたしを知っているということだ。知るということさえ努力の問題だと思う。「判る」については尚更だ。偶然の繰り返しで判ることなどひとつもない。
 憶えていれば、大丈夫なのだと思う。触れた人やものに対する関心さえ失わずにいれば、少なくとも憶えていることはできる。あったこと全て、思ったこと全て、出会った人の全て。」


私は今夜も猫に会いにいく。
私以外に、私を知っている猫に。
同じような寂しさを抱えて寄り添うために。
猫は昔、こう言ったことがある。
「僕は「孤独」について一生詠っていくんだろうと思う」
と。
孤独と共生することを受け入れながら、
私はどうしようもない気持ちを抱えて猫に会いにいく。
猫はただ何も言わずに、寄り添うことを許してくれる。
そして朝になれば、私はまたひとりで歩いていくのだ。