そんなつもりじゃなかったんですthey their them 鷺沢萌

鷺沢萌の周りを渦巻くどうしようもなく楽しい仲間たち。そんな彼らがくれた笑いの日々。
彼女が今の私と同い年のころに書いたエッセイ集。私もこんな風に書けたらなという思いともうひとつ、彼女は死んでしまったんだなということを思い続けながら読みました。

「あのころと今と、どちらがいいかということは誰にも言えないと思うけれど、あのころ自分たちが持っていた、触ると感電でもしそうに切羽詰ったような何ものかを、ときどきひどく懐かしい気持ちで思い出すのは本当である。
 十代のころに人が持ちうる時間という容れものの容積の大切さを、いちばん残酷な形で実感せざるを得ない時期は、二十歳をそこそこ越えたときであるのかも知れない。」
(「アイスクリームの午後」より)

あのころ、確かに自分にしか目指せない何かがあった。周りの凡庸さとはかけ離れた何かを、胸の中に秘めていた。
あのころ持っていたそういう何かは、もう今この手にはほとんど残っていない気がする。平凡になった、他人から見ても自分から見ても、確かにそう見えるかもしれない。けれど、そう変わっていくことを私は後悔してはいない。
変わりつづけながら、それでも変わらないものを抱えながら、少しずつでも歩いていけたらいい。