ASIAN JAPANE

小林紀晴著 情報センター出版局 初版95.5.1

多分、どこにも行けない。帰る場所がここである限り。だから、どこかに行けた気になりたくて旅に出たのだと思う。
いつか、帰る当てのない旅に出たい。気の済むまで旅をして、その先に何もないことを知りたい。いや、その先を何も知らないでいたい。
出発前夜、昨日までの期待に高鳴るわくわくした気持ちは、どこか褪めてしまった。ASIAN JAPANESEを、一気に2日で読んだ。そこにあるのは憧れで、だけどどこかもう通り過ぎてしまった気もした。そこになにがあるのか。
確かに覚えているんだ。放たれて、裸で、ただそれだけで生きるということを。だけど、こんなにも無くしてしまう。
明日はまだ暗闇の中だと、確かめたかった。そんな明日が欲しかった。けれどそんな明日は、手に入れてみればあまりに簡単だった。そして何なのか。
すべてが見えてしまうのがこわかった。最終的に辿り着くものを、多分本当は知っている。けれどそんなものを見つめては、生きていけない。だからその前に立ちふさがる、それとわからないきれいな鏡にできるだけ美しいものを映さなきゃならない。
どうして旅に出るのか。その答えは流れるように変わる。そして今の私は、その鏡に映る自分の背景にできるだけ美しいものを映すために、旅に出る。
明日、愛すべきこの地からバンコクへ。