国境の南、太陽の西

 村上春樹著 講談社文庫 '95.10.15

 感情ではなく形のないある種の感覚を与えるには、ストーリーの出来事ではなく登場人物の感情でもなく、小さな言葉の表現にあるのかもしれない。気にも留めない小さな言葉たちによって、気付かぬうちにある感覚に陥れられていく。
 人生を支配するものは感覚だ。国境の南にある「多分」の世界を摑み損ねたら、あとは太陽の西にある「絶対」の死へ向いひたすら歩き続ける。手にも触れられないものが世界を支えている。誰もがそれぞれの不安定な世界を。
 国境の南、太陽の西、その先にあるもの。