「白夜行」 著者・東野圭吾 集英社文庫 初版・'02.5.25

(あらすじ 抜粋)
 1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局事件は迷宮入りする。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂 …暗い目をした少年と並外れて美しい少女は、その後全く別の人生を歩んで行く。二人の周囲に見え隠れする、いくつもの恐るべき犯罪。だが、何も「証拠」はない。そして十九年……。


 先の見えないストーリーの中で、怖さを感じ、見えないけれど確かにそこにある何か、大きくて深い何かを感じる。そしてその何かが見えたとき、恐怖は悲しみに変わる。大きくて深いもの、それは過去だ。人生が始まったばかりの、ほんの幼い頃の傷。その傷を舐めつづける人生。
 人は狂気を孕んだ生き物だ。きっと誰もが心の芯に狂気を抱いている。狂いたいと思うのだ。けれど理性が邪魔をする。多くの人間はそうして狂気をとどめて生きる。
 けれど彼らは狂うことでしか生きられなかった。そして彼らを最後に待っていたものは、またしても大きな悲しみだった。全くの正当な悲しみだった。人生は、白い闇をさまよう彼らを、最後まで裏切り続けた。やり場のない悲しみに支配されて、もうかけらの光もない夜に、一体どこへ行けるというのか。