2012-10-09 京都。 独舌 僕は此の世の果てにゐた。陽は温暖に降り洒ぎ、風は花々揺ってゐた。 (中略) さりとて退屈してもゐず、空気の中には蜜があり、 物体ではないその蜜は、常住食すに適してゐた。 (中略) 名状しがたい何物かゞ、たえず僕をば促進し、 目的もない僕ながら、希望は胸に高鳴ってゐた。 中原中也 「ゆきてかへらぬ―京都―」より 懐かしさにさえなれ得ない切なさが、 その街には漂っていて、 優しくて生ぬるい夜風を肌に纏うように、 記憶を漕がずには歩けない。